アナザーストーリー(だましあいはドリンクバーで)

「だましあいはドリンクバーで」の中で争っているドリンク達。

メロンソーダ、オレンジジュース、ジャスミンティ、ウーロンチャは、そもそもなぜ争ってるのか?

ここでは、ドリンク達が人間に乗り移ってだましあいを始めるきっかけとなっている、ドリンク達の原点のお話しをご紹介!!

ゲームへの思いが深める熱いストーリーをお楽しみください!

ツキ
case ジャスミンティ

第1章 月子

1997年6月25日。彼の33回目の誕生日。
激しい雨で視界を遮られたワンボックスカーが道路を横断中の彼に真っ直ぐ向かってくる。
危ない!そう叫ぶより先に体が動いていた。私は全身で彼を道路脇に吹っ飛ばした。
次の瞬間、体が破裂したかと思うほどの衝撃が襲ってきた。それでも私は、人生で味わったことのない幸福に満ちていた。彼の役に立てた。薄れゆく意識の中でそんなことを考えた。

都会のアスファルトにこれでもかと雨を殴りつける、お天道様か何かしらの鬼の形相を想像しながら、私の記憶は当時にタイムスリップしていた。

「ジャスティ」
ふと我に帰ると、リーダーが不思議そうな顔でこっちを覗き込んでいた。真正面から見つめられて、私は思わず顔を伏せる。
「どうした?ボーッとしてたみたいだけど」
さりげない言葉に私の体温はさらに上がる。
「いえ、あの、な、なんでもないです。ただ、あの、雨が降ってるなって」
思わずどもってしまい、私はまた赤面する。
「そう。ならいいけど」
「すみません。」
「いや、いいんだけどさ。何でもかんでも謝んなくていいんだって。別に悪いことしてるわけじゃないんだからさ」

リーダーのいつもの優しい言葉に、思わず体がビクッと反応してしまう。私は悪いことをしたのだろうか。答えは未だにわからない。だけど、きっとこの答えを出さないかぎり、私はここから出ることはできないのだろう。

ジャスミンティを略してジャスティ。
私のここでの通称。
私は生粋の日本人だけど、そう呼ばれると悪い気はしない。ビバリーヒルズ青春白書に出てきそうな、私が憧れる、決して私ではない名前。

私の本名は橋本月子。
私はこの名前が好きではなかった。
ツキコという響きもそうだったし、何より名前の由来が気に食わなかった。
神戸の良家に生まれた母は、子どもの頃から宝塚を観て育ったそうだ。察しのとおり、私の名前はもちろん、月組に由来している。彼女達のような、美しく華のある女性に育ってほしい。

そんな母親の身勝手な願望を押し付けられた私は、彼女の期待とは裏腹の、ごく普通の容姿の子どもに育った。それはそうだろう。両親はお世辞にも美男美女とは言い難い、つまるところはごく一般的な日本人の顔をしていたわけで、突然変異など、そう頻繁に起こるものでもないからだ。

月のように、昼は存在しているのかもわからない目立たない存在。そう自覚して生きてきた私は、小学生の頃から中学、高校、大学と、いじめられるでもなく、特に注目されるでもなく、無難に過ごしてきた。恐らく私が死んでも、心から悲しんでくれる友人はいないのではないだろうか。そしてもし仮に、私が犯罪を犯して同級生がインタビューを受けたとしても、地味な子でしたね、とか、あんまり目立つ方ではなかったですね、とかそういう返答になるのではないかと思う。

私は今から約25年前、とある会社の経理部で働いていた。いわゆるOLというやつだ。高校卒業後、入社7年目でこの部署に異動になった。そこにあなたはいた。私は異動した初日にちょっとしたミスをした。あなたは私を責めもせず、謝らなくていいんだよ、と優しい言葉を掛けてくれた。

そこからは一気に夢中になった。
私にもこんな大胆なことができるのかと内心驚いた。あなたとお近づきになるのに、それほど時間はかからなかった。
毎日挨拶を交わし、夜は帰宅時間が合えば、一緒に帰った。あなたはいつも私の少し先を歩く。その大きな歩幅が好きだった。私はあなたと並んで歩こうとは思わなかった。あなたは会社の女子社員の憧れの的で、私のような人間が彼の横にいれば、きっとみんな嫉妬して私に嫌がらせをしてくるだろうから。

あなたと撮った写真も数えきれない。
いつだったか、あなたが会社の飲み会で酔っ払って公園のベンチで寝ちゃったときも、こっそり寝顔を撮らせてもらった。きっとバレたらあなたは恥ずかしがるだろうけど、私にはそんな無防備ささえも大切な宝物だった。

私達は2人の関係を会社の人にはバレないように、社内ではなるべく他人行儀に振る舞った。極力、最低限の「おはよう」と「お疲れ様」だけ。
あなたは太陽で私は月。
昼間はあなたが私を照らしてくれる。
私は夜に月となる。

第2章 あなた

目を覚ますと、僕は病院のベッドの上にいた。

「ようやく目を覚ましましたか」
グレーのロングコートに身を包んだ大男が、顔に似合わない丁寧な口調で話しかけてくる。
「あなたは…?」
状況が飲み込めず、僕は彼に尋ねた。

「私は刑事でここは病院です。2時間ほど前、あなたが近くの道路を歩いていたところに、雨で視界を遮られた車が突っ込んできまして」
そこまで言うと、刑事はポケットから1枚の写真を取り出して僕に見せてきた。

「この方があなたを道路脇に突き飛ばしてくれたおかげで、あなたは助かったんです。」20代後半くらいだろうか。美人というほど美しくもない。地味というほど暗くもない。どこか不思議な魅力のある女性だった。

「そうだったんですか」
「ええ、残念ながら彼女は即死でしたが、そこはお気になさらないでください」
僕は悪くないということか。しばらく考えて曖昧に返事をする。

「ところで、あなたはこの女性とお知り合いだったんでしょうか?」

改めて写真を確認し、必死に記憶の糸を辿る。
「そういえば確か、同じ会社の経理部の…」
朧げな記憶を頼りに僕は答えた。
「そうでしたか。同僚の…。この方は橋本月子さんという方です。親しく言葉を交わしたことは?」

「いえ、同じフロアですが、特に親しくは。確か彼女が異動してきたばかりの頃に、一度軽く話をしたくらいで」
質問の意図が分からず、僕は正直に答えた。

「ここからは、少し頭の痛い話になるのですが」
本当に頭の痛そうな顔でなおも刑事は続ける。

「最近TVドラマでも話題になっていたでしょう?
ほら、あの俳優の渡部篤郎さんが主演していた…」
「すみません。ドラマには疎いもので…」
僕は正直に答える。
「そうでしたか。まあそれはいいとして、我々も正直、対応に困っておりまして。驚かないで聞いてください。」
話が読めず、僕は曖昧に頷く。

「彼女は実は、ずっとあなたに付きまとっていました。あなたのことを隠し撮りした写真も見つかっています。いわゆる、最近流行りのストーカーというやつです」

最終章 ジャスミンティ

「さあ、そろそろゲームを始めようか」
あの頃のようにリーダーが優しくみんなに声をかけてくれる。あの頃、あなたと同じ部署で毎日あなたの声を聞けたらと何度願ったことか。

でも、まさかこんなところであなたと再会できるなんて、思ってもみなかった。あなたはあの頃よりもちょっぴり老けてしまったけど、私を蕩けさせる優しい声はちっとも変わっていない。
あなたの誕生日は、私の命日。あなたは歳をとるたびに、きっと私のことを思い出す。
ねえ、リーダー。知っていますか?
ジャスミンの花言葉は「あなたについていく」
今度はもう、死ぬことはない。だから、今度こそ、ずっと、憑いていく。もう一度、あなたに。

準備中

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この小説は、K.Miraiさんに寄稿いただいております。
Miraiさん、のInstagramはこちら↓

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